追悼市川準監督おすすめ度
★★★★★
『トニー滝谷の本当の名前は、本当にトニー滝谷だった。』
冒頭シーンに入る朗読に似たナレーション。村上春樹さんの作品が持つ独特の空気を
体現している事に驚き、うれしくなった。
息子にトニーと言う風変わりな名前を付けるジャズマン
滝谷省三郎(イッセー尾形の二役。)の描かれ方が抜群に良い。
戦前の上海で一瞬の名声を得て居た時と、全て喪い捕虜収容所に入れられ
『そこでは生と死のあいだには、文字どおり髪の毛一本くらいの隙間しかなかった。』と
呟いてからの表情やセリフ回しがガラッと変わっている。
父親に向かない男に放任されたまま、生まれながらの孤独と喪失を抱えて育つ息子トニー。
イッセーさんが学生時代からの彼を演じて居るのも、
世界から隔絶され独り老成してしまわざるを得なかったトニーの内面が
上手く表されているように思う。宮沢りえの好演も素晴らしい!!。
彼女が登場した途端、画面が明るく輝き出す。『トニー滝谷の人生の孤独な時期は終了した。』
その言葉がピッタリ当てはまる程の存在感。洋服を着るために生まれて来たかの様に、
とても自然に服をまとう女性。しかも、洋服に向ける熱情が暴走し、
遂には手当たり次第に高級ブランドの服を買わずには我慢が出来なくなって行く女性。
この難しい役を堂々と演じ切った彼女に拍手を贈りたい。
この彼女の熱演がなかったら、終盤におけるトニー滝谷の埋めようのない空白と、
欠落を引き受けての再生への意思表明も質の違う物になってしまっただろうから。
原作に対する最大限の敬意と愛情が伝わってくる作品です。
二つを見比べるのも発見が有り面白いと思います。
優しい雨のような映画。おすすめ度
★★★★★
雨です、、なぜか自然に、、この映画を、、、部屋の大きな窓を開けて、、窓の近くで観ました。
今日はとても湿度が高く、でも涼しく、でも、涼しい中にも夏へ向かう力というか優しさがあり、
大粒の雨が沢山降っていて、雨音が庭の木やデッキにあたる音が、この映画のように心地良かったからです。
まるで、映画の空気感に包まれたような静かな優しい一日でした。
坂本龍一のピアノも今日の雨音に合い、ほんとに、映画の中に入ってしまったような感覚でした。
別にキリスト教徒ではありませんが、、ピアノ曲が、何故かアベマリアと聞こえます。
不思議な充実した一日をありがとう。
雨はまだ、やさしく、降り続けています。
今日の雨は、きっと育みの雨ですね、、、きっと、、、
トニー滝谷とあの女性も愛情を育みあうのでしょう。
このみがあるかも知れませんがおすすめ度
★★★★★
かなり冒険的な作品だと思います。小説の世界を映像化する一つの実験のような感じもしました。宮沢りえは本当にすばらしい。セリフもシーンも多くはないけど、どんどん引き込まれていきます。イッセー尾形はもともとファンだったのですが、期待を裏切らず奥の深い表現を見事に演じています。
孤独ゆえの喪失感おすすめ度
★★★☆☆
ズルい映画だ。海外における評価も高く、おそらく夏目漱石や川端康成のように文学史において名を残すことになるであろう村上春樹大先生の短編が原作だけに、ストーリーに忠実どころか一字一句誤ることなく正確に模写された作品だからだ。今や村上春樹の解説本なるものも出回っており、かつてのゴダールのような扱いを受けている作家に挑む気概は、この市川準という監督にはなかったことがはっきりわかる。
西島俊彦のナレーションというか小説の朗読があくまでも主であり、映像はひたすら小説の流れに従うように控えめに映し出される。Tシャツのプリントから着想をえたという村上春樹の原作は、現代人の喪失感や孤独感に満ちてはいるが、主人公の生活は経済的に保証されており完璧に滅菌されている。そこには、背に腹は変えられぬ苦しみや人間臭さを感じることはできない。
現実から剥離した原作の一部を、登場人物のイッセー尾形や宮沢りえにそのまま読ませるような演出をしているが、それでは監督自身のこの原作に対する解釈が反映されないのは目に見えている。村上春樹の小説を好んで読む読者たちと作家との距離感はあまり違わない。
自分の領域にふみこまれたくないために、他人の領域もおかそうともしない現代人。作家が意図したのは、他人と積極的に関わろうとしないまさにその孤独感だったが、この市川準という監督にも、作家大先生の領域にふみこもうとしない現代病のもどかしさを感じなくはない。
大変良く出来ています。
おすすめ度 ★★★★★
出来は非常に良いです。これだけは手に入れようと思い購入を決めました。
こつこつお金を貯めてでも買う価値のある一品だと思います!
概要
村上春樹原作の同名短編を、市川準監督が映画化。ジャズ・ミュージシャンの息子として生まれ、「トニー」という名を付けられた主人公がイラストレーターとなり、仕事先の編集部員、英子と結ばれる。幸せな結婚生活で唯一の問題は、英子が次々と新しい洋服を買うという依存症だった…。イッセー尾形がトニーを淡々と演じ、英子役の宮沢りえも、言いようのない焦燥感を絶妙に表現する(彼女は妻の“身代わり”となる女性と2役を好演)。
ゆっくりと左方向へ動いていくパン(水平移動のカメラワーク)が心地よい。トニーの幼い頃の生活から、仕事、結婚生活と移りゆく日々が、走馬燈のように画面を流れていく。カメラと被写体の距離感は、市川監督の『病院で死ぬということ』を思い出させる。西島秀俊のナレーション、坂本龍一作曲のピアノ曲など、多くの要素がマッチした映像世界が伝えるのは、孤独であることの哀しさと心地よさの二面性。結局、人間は死ぬまで独りであると納得させられながらも、それはそれで辛いのだという思いが、ふつふつと湧き上がってくる。(斉藤博昭)